その塔へたどり着く為に、私たちはだいぶ回り道をしてしまった。
砂漠を南下したら岩山に到達してしまって身動きがとれなくなって。北上して
見つけたオアシスも蜃気楼だったから、ちっとも休めない。
 熱くてダルくて、モンスターを見ると叩き潰したくなってしまう。淑女としては
どうかと思うのだけれども……。この状態で、そんな事を言ってられないわね。
 頭がむき出しになっていない分、まだ楽なのだと思わないと…。
「大丈夫?」
 ふたりが交互に私を気づかって声をかけてくれるのだけれど、私はそれに答えるのも
おっくうなくらいだった。だまって首を縦に振って、改めて一歩一歩足を進める。
 もうーー、どこまで行けばいいのよぅっっ!
「あー!! 塔が見えるよ!」
 サマルトリア王子の声に頭を上げると、はるかに塔の影らしきものが見えた、ような気がした。
「また幻じゃないかなあ」
「弱気になってどうするんだよ、大丈夫だって」
 サマルトリア王子はのんきなところがあって、普段は心配になってしまうくらいなのだけれど、
こういう時にはその天真爛漫さに救われるような気がする、わ。
「とにかく行ってみよう」
 ローレシア王子の力強い声に、サマルトリア王子が嬉しそうな顔をした。
「そう来なくっちゃ!」
 塔は砂漠の熱気にゆらゆらと揺れながら、徐々に確実に近付いて来た。あれは幻じゃなくて
本物よね? 誰か本物だって言って!
 疲れがたまっているから、砂に足を取られてなかなか前に進めない。それでもなんとか
塔に辿り着くまで私は頑張って歩いた。幻じゃなかったのよ! ありがとうサマルトリア王子!


 塔に一歩入ると、じんわりとした冷気が私たちを包んできた。普通ならあまり気持ちの
よいものではないけど、暑さに参っていた身体には沁み入るみたいだった。ふと人の気配に
顔をあげると、男性が立っている。こんな所で生活しているのかしら?
「ここはドラゴンの角。昔は向こう岸の塔とつながっていた場所さ」
「昔はって、今はどうなっているんですか?」
「ふたつの塔をつないでいた橋が落ちて、今はもう渡れんよ。ただ、高さはあるから、何か、
空を飛べるような工夫をすれば川の向こう岸までゆけるかもしれんがね」
 私たちは、顔を見合わせた。
 どこかの塔に空を飛べるマントがあるという情報で、砂漠を越えてやっとここに辿り着いたのに、
この場所はそのマントを使わないと川をこえられないのね。他の塔を探せということ……。
 大きなため息が出た。元来た道を戻るしかない。
 疲れきった私を見て、男性は貴重な(たぶん)水をわけてくださった。ありがとう。
「仕方ないね、戻ろう。おそらくムーンペタのそばに別の塔があったんだろう」
ローレシア王子の言葉にくらくらしながら、私たちは元来た道を引き返した。


 砂漠を越えると、ムーンブルクの城が見える。ただれた魔物たちの気配が漂うような、
いたたまれない場所になってしまった私の城。お父様たちの魂が、未だ浄化されずに
留まっている場所。
 城からは未だに消えぬどす黒い煙があがっていて、私を暗鬱とした気分にさせた。
「必ずムーンブルク城の仇はとってやるから」
 気が付くと、サマルトリア王子が私の肩を叩いてくれていた。
「そうそう、3人いれば大丈夫だって」
ローレシア王子の言葉は、サマルトリア王子よりも力強く感じられる、なんて言ったら
サマルトリア王子に悪いかな?
「そうね、がんばるわ!」
 私はうなずいて、歩を進めた……。


 いったんムーンペタに戻って塔についての情報を集め、川を渡り山を越えてその塔に行き、
私たちは風のマントを手にして、再びドラゴンの角に戻ってくることができた。その間に
どんな眼にあったのかは、あまり思い出したくない。ドラゴンの角のてっぺんに立っている
自分が信じられないくらいの、長い長い遠回りだったわ。前にここに来たのは一体いつだったか
それもよくはわからないくらいに……。
 眼下に広がるのは、大陸を分つ川と、新しい世界。ここから飛び下りて向こう岸へ行かない
限り、ムーンブルクの仇をとる事は出来ないのだと思う。思うけれど、ちょっと怖い光景ね。
「ムーン、これを使って」
 ローレシア王子が渡してくれたのは、風のマント。苦労してやっと手に入れた宝モノだ。
「え? 私が使っていいの?」
「ムーンが怪我したら大変だからね。僕たちは、ムーンにつかまって離れないようにするよ」
「そうそう、ムーンが僕たちをつかまえて飛び下りるより、僕たちがつかまえた方が安心だよ」
 ふたりが口々に言ってくれたので、私は風のマントを装備した。ふわ〜りと身体を支えてくれる
マントが気持ち良い。
「じゃあ、しっかりつかまってね?」
くるりと振り向いてふたりに言ったら、なんだかソワソワしている。
「なあに?」
「いや、別に。さ、さあサマルトリア王子、先につかまって」
「ローレシア王子こそお先にどうぞ」
「いやいや、ここはサマルトリア王子が」
「遠慮しないで、ローレシア王子が先にどうぞ」
「も〜、どっちが先でもいいわよ! 早くしないとひとりで行っちゃうからね?」
 ちょっと脅かしたら、ふたりは慌てたように私にしがみついてきた。
「行くわよー! せ〜〜のっっっ!!!」
 3人一緒に塔を蹴って、風に乗った。
 マントは、風をはらんで私たちを運んでゆく。一気に川を渡って、隣の大陸へ!
 なんだかとっても気持ちがいいわ! ふたりとも笑顔だから、同じ気持ちなのね。
 って………あれ? どうしてつかまっているふたりの指先が動いているのか……な?
「ちょ、ちょっっとおおお、あなたたち、どこを触っているのよぅ!」
「役得」
「チャンスは逃すべからず」
 私はふたりを空中から叩き落としてやった。でもほんの数メートルしか落下しなかったので、
怪我もなかったみたい。まったくもう、油断もスキもないんだからっっ。
「今度こんな事をしたら、イオナズンだからね?」
「まだ唱えられないのに?」
「唱えられるようになるまで、的になってもらうから」
「ごめんごめん! もうしません」
「ご先祖さまに誓える?」
「誓います」「もちろんです」
 謝ってきたふたりを見たら、それ以上怒る気にはならなかった。大して触られたわけじゃないし
許してやるかっ。
「じゃあ、行きましょう!」


 ルプガナのゲームブックへ続く
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