大切なあなた
一体今はどこにいらっしゃるのかしら。
あなたとの愛の結晶をゆっくりと温めながら、お帰りを待つつもりでおりましたのに。
ある朝、突然に、私の中の胎動が消えてしまいましたの。
あなたと私をつなぐものは何もない……そう感じられて仕方ありません。
もともと身体が強くない上に身重だった私の身を案じて、陸上に残る事を勧めてくださった
コスタール王の暖かいお気持ちはわかっております。
なれど。
あなたのいない夜は長く冷たく、体を蝕む気がいたします。

私の身体が冷えないように、さすりながら眠ってくださったあなたがいないのですもの。
もう、心底冷えきってしまう程に寒くて寒くて寒くて。
でもあなたは、どこかで氷付けにされてしまったと聞きました。
きっとあなたのほうが寒いでしょうね。お可哀想に。
せめて少しでもあたためてさしあげたいのに。今はそれも叶わない……。

豪奢な天蓋付きベッドにひとり眠る貴婦人。その美しい寝顔には、幾筋もの涙の跡が光っていた。
「……こんなに泣いて……」 アルスはそっと頬の涙をぬぐった。
メイドが慌てて声をかける。
「やっとお眠りになられたところですので、そっとしてさしあげてくださいませ」
「そうですね、ごめんなさい。……あんまり哀しそうな涙だったから」
メイドはうつむいて答えた。
「シャークアイ様のお子さまが突然胎内から消えてしまってから、アニエス様から笑顔が無くなってしまわれました。
おまけにシャークアイ様は氷付けにされてしまったとの噂もございますから……。
シャークアイ様がお戻りになる事を信じて気丈にしておられますが、やはり夜になりますとお辛いようです」
「そうね……。お腹に宿った命が突然無くなってしまうなんて、女としてこれ以上辛い事はないですもんね」
眉をひそめたアイラの言葉に反応してか、アニエスが身をよじった。
「うう〜ん、う〜ん、シャークアイ…そこにいるの?う〜ん」
目を覚ましたアニエスは目の前のアルスたちに目を丸くした。
そして、起き上がると、アルスの頬に触れようと手を伸ばした。
びっくりして動きの止まったアルスを優しく見つめ、そっと頬に触れる。
指先に触れた頬の感触。そして、その瞳の深い色。
アルスを見つめたアニエスは、愛しい人の面影を感じて首をかしげた。
私のシャークアイさまは、今でもこんなにお若かったかしら? そんなはずないわね。
「…あなた、シャークアイ…じゃない?」
でもなんだか似ているわ……。あの方のお若い頃の肖像を見ているようだわ。きっとこれは夢なのね。
「いけませんわアニエス様!お休みにならないとお体にさわります」
メイドの言葉に我にかえったアニエスは、こう言った。
「アラ、私…ごめんなさい。昔の夢を見ていたものだから」
昔の夢。
アニエスが、泣きながら見る、昔の夢。
それは、愛する人の子供を失ったと知った日の夢だろうか。
それとも、シャークアイが氷付けにされたらしいと知った日の夢だろうか。
夢の中も現実も、この女性は幸せではないのだ。
居合わせたアルス一行とメイドの表情が曇るのを、アニエスは不思議そうに見つめた。
私、何か変な事を言ったかしら? 
「さ、さあ、アニエス様ベッドへお戻りください」
やっとの事で言葉を紡ぎだしたメイドの声に、アニエスは無理に笑顔を作った。
「ええ、皆様ごめんなさいね、休ませていただくわ……」

眠りながらも、アニエスは祈る。
私の愛しい方は、永遠に溶けない氷の中に閉じ込められてしまったそうです。
でもきっと、あの方はいつか必ず氷の中から抜け出して来られます。
私はその時にあの方と再び御会いしとうございます。 その為に、どのような姿になろうとも構いません。
どうかどうかどうか、私を今ひとたびあの方と巡り合わせてくださいませ。
あの方をお守りくださる水の精霊様、どうぞお願いいたします……。

DQ7キャラスレ229氏作


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